2005 [9th] Japan Media Arts Festival Device Art Symposium "Will Techno Gadgets Become an Art?"
Presentation
by Kazuhiko Hachiya


平成17年度(第9回)文化庁メディア芸術祭
デバイスアートシンポジウム「テクノガジェットはアートになるか?」

プレゼンテーション:八谷和彦
2006年3月2日@東京都写真美術館


2.4■八谷和彦:プレゼンテーション

八谷:なんか土佐君の後って、すごくやりにくい(笑)。というわけで、ずうっと座っているのも何ですので、ちょっと立って話してもいいですか?

 去年まで僕は、このシンポジウムの客席側にいたのですが、なぜか今年はこちら(出演者)側でやることになりました[注:前年度のメディア芸術祭シンポジウムで客席にいた八谷和彦は、シンポジウム終了後、即刻プロジェクトにリクルートされた(草原)]。僕もメディアアートの作品をいくつか作っておりまして、今回は「テクノガジェットはアートになるか」というお題がありましたので、僕なりにそれを考えてみて、自分の作品がどのようにして作られてきたのかを考察すると、だいたいこの「技術」と「アート」と「デザイン」の真ん中あたりを狙って作ってきた、とでも言いましょうか【図1】【図1】クリックして拡大

 バリバリのアートというのは僕にはできないし、すごく良いデザインとかもできないのですが、その中間領域にあるものは、まだ作られたり試されたりしていないのではないかと思っていて、そういうところを狙って作っているんだなぁと、自分の作品に関して改めて思ったわけですね。技術とアートの境界とか、アートとデザインの共有領域とか、デザインと技術の共有領域みたいなものに対して、ものを作っています。


2.4.1●「技術とアートの共有領域」
    『視聴覚交換マシン』
    『Psycho Communicator System』

具体的な事例を挙げてみますと、まず僕の作品でメディアアートは、だいたい「技術とアートの共有領域」の辺りに位置するわけですが、最初にお見せするのは『視聴覚交換マシン』【図2】【図2】視聴覚交換マシン(撮影:黒川未来夫)クリックして拡大という昔の自分の作品です。左側に出ているのは、台湾でやったときの映像です。

 この作品のコンセプトはですね、日本では人の行為を戒める時によく「人の立場に立ってみなさい」みたいな言い方をするのですが、人の立場に立ってものを考えることがそもそも本当にできるのだろうかという疑問もあります。そういうふうに「人の立場に立って」コミュニケーションすることを実際にやってみたら、つまり本当に目の位置を自分と相手で入れ替えてみたら、どういうことが僕らの中で起こるのだろうか……ということを確かめたくて作ったのが、この作品です。だからこれは、ぜひ仲のいい人といっしょにやってほしいという意図もあります。

 自分の作品の中でも、この作品が一番ポータブルだということもあって、色々な場所に持っていったりしていますが、だいたいどこの国でも受けます。あと、先ほどのクワクボくんの(子供しか作品を体験したがらないという)話にも関連するのですが……そうは言っても僕の『視聴覚交換マシン』も若い人、特に女の人がやりたがるケースが多くて、その辺りに冒険心、あるいは新しいものに対する許容の広さみたいなものが現われてくるのかな、と思いました。

 あともうひとつ、この作品ではコンピュータを一切使っていないのですが、個人的にはバーチャル・リアリティが出始めた時、コンピュータを使ったバーチャル・リアリティの作品を体験してみて、あまり面白くなかった覚えがありまして、それでコンピュータを使わずにバーチャル・リアリティ的な体験ができないか、と思って作ったのが、この作品なのですね。ちなみに僕は今、デジタルハリウッド大学院という学校で授業を持っているのですが、このあいだ、そこで(次にご紹介します)『Psycho Communicator System』という作品とこれを同時に披露したのですけど、まだこちら(『視聴覚交換マシン』)の方が受けたので「自分もまだまだだなぁ」と思いました(笑)。


 これが今、申しあげた『Psycho Communicator System』【図3】【図3】クリックして拡大という作品です。もともとこれは「ガンダム展」のために作った作品で、ガンダムの世界の中に出てくる「サイコミュ」という武器があるのですが、その武器の原型になった特殊なコミュニケーション装置があったと仮定して、それを観客の方に体験していただくという趣向です。これは、NTTコミュニケーション基礎科学研究所の前田太郎さんという方といっしょに製作していまして、ちょうどこの画面を見ていただきたいのですが、頭を動かした方向に向こうの人がヨロヨロっと傾いていく装置で、言葉とかを使わずに、電気装置だけでコミュニケーション(と言っていいのかな?)……とにかく、向こう側の人を勝手に動かしてしまう、体に直接アクセスして動かすというタイプの装置です。この作品は明後日の土曜日、1時からと4時からの2回かな? この上の2階の方でポータブル版を実演させていただけることになっていますので、もしもまた来場される方がいらっしゃったら、ぜひ体験してみてください。なかなか他ではできない体験なので、けっこう面白いと思います。



2.4.2●「アートとデザインの共通領域」
    『PostPet』
    『ThanksTail』

次に「アートとデザインの共通領域」。これは今日のテーマにも一番近いと思うのですが、アートを商品化する、あるいはアートのスピンオフとして商品を作る、みたいなことをいくつかやっていますので、順にご説明します。

 たぶん、僕の作品の中で一番知られているものとして『PostPet』【図4】【図4】PostPet(c)So-net Entertainment Corporationクリックして拡大というものがあります。今、“作品”と言いましたけれど、もともとこれはアートプロジェクトとしてスタートしてまして、例えば自分の女の子の友達がメールを使っていなかったので、そういう子たちにもメールを使わせるにはどうすればいいだろうか、とか、そういう狙いが発端にはありました。

 あと、単に可愛いものを作りたかったわけでもなくて『PostPet』の機能のひとつに「誤配」(厳密には本当の誤配ではないのですが)、ペットが自分や自分の友達に勝手にメールを書いて送るという機能があるのですが、自分の知らないところで勝手に他人にメールを書くようなことって、それまではコンピュータ・ウィルスとかしかやってないことなのですね。だから、そういうコンピュータ・ウィルスがやるようなことも、やりようによってはエンターテインメントにできるのではないかと思って、この『PostPet』を作ってみました。

 ただし、この『PostPet』そのものを100%自分の作品だと思っているかというと、そうでもなくて、やはり商品として成立するように設計をしています。あと、例えばこの『PostPet』のプロジェクトだと、僕以外の人もたくさん関わっているので、そういう人たちとの共同作業だとも思っています。


 次が『ThanksTail』【図5】【図5】ThanksTails(撮影:牧原利明)クリックして拡大という作品です。これは「自動車に尻尾をつけよう」というプランです。まあ、自動車に乗られる方は分かると思うのですが、例えば車線を譲ってもらった時にハザードランプを点けたりするのですが、もともとハザードランプって「もうすぐ止まります」という意味があるわけじゃないですか。だから「もうすぐ止まる」という合図と「ありがとう」というサインをひとつのものでやるのは変だと思っていて、そもそも車には「ありがとう」と言うための道具が付いていないから、だったらそれ専用の道具を作っちゃおう、という考えですね。その時に、テキストや音声でそれをやっても、あまり相手に伝わりにくいから、一番伝わりやすそうなものとして、犬の尻尾の動きを考えて作ったのが、これです。

 基本には対クルマで使うのですが、専用道路の料金所のおじさんにも「ありがとう」と言える。車自身ができてからもう100年以上経つのに、「ありがとう」のひとつも言えないのは変だな、と常々思っていたのです。

 あともうひとつ、最近、狂牛病がニュース等で話題になっていたのですが、例えばこれは2003年度の数字なのですが、交通事故の死者数って、国内だけで年間7702人もいます。かたや、狂牛病で死んだ人は当時1人いたかいないか、って頃ですよね。その7000倍もの人が死んでいるのに、自動車事故はもう日常茶飯事になっちゃっていて、こちらはどうでもいいというか、それに対してあまりシリアスじゃないな、という思いがありまして、ならば安全性を高めるのに、道路をよりジェントルな空間にしていく、という考えもあるのではないか、と思い、作ることにしたのです。

 実はこの7702人という数字自体は、毎年少しずつ減っていて、警察はさも自分の手柄のように「(死亡数は)減っています」と言うのですが、僕はちょっとそれに疑問を持っていて、それは医療の発達によって単に数字が減っているだけじゃないか、と思っていたりします。例えば、この死亡数は「即死の時だけカウントされる」というルールになっているのですが、即死ではなくて事故から30日以内に死亡した人だと8877人、さらに1年以内だと結局1万人を超えちゃう。自動車事故で年間11483人が死んでいる。だから(即死者の数が減っているだけで)実態としては、やっぱり1万人を切っていない。そういうことに対してちゃんと目を向けよう。と同時に、あまりシリアスな形じゃなくて、もう少し別のやり方で道路におけるストレスを減らせないかと思ったのが、この『ThanksTail』です。

 ちなみに交通事故件数というのもあるのですが、そこの左から2番目の眼鏡の方、例えば年間の自動車事故の件数ってどのくらいだと思いますか?


:100万くらい?


八谷:近い! 94万件です。でも100万件近いということは、ほぼ人口の1%に近いわけですよね。100人に1人が(死にはしないまでも)交通事故に合っている計算です。だから道路をジェントルな空間にしたいなぁ、というのはすごく切実に思ったのですね。事故件数が94万で、死傷者数の合計は100万をオーバーしていて、118万人。

 それで、これが現物の『ThanksTail』です。プロジェクタに映して先ほどお見せしたのは試作品でしたが、こちらが商品として去年出た実物です。こういうふうになっていて、裏にマグネットが付いていて、ペコッと車に貼れるようになっています。同時にこの辺にワイヤーを付けるところがあって、これは一昨年あたりから作り始めたのですが、三菱自動車の事故の話とかが色々出ていたので、落下防止のためにワイヤーとかも色々入っていたりします。これがメイン・スイッチで、LEDが付いていない。スイッチを入れると1回動作するようになっていて、こっちが車の運転席に付けられるキットで、ここを押すと尻尾がこう揺れるというものです。オートバックスなどで、これがなんと4980円くらいで売っているはずなのですが……一昨年の末に出たので、今はどうか分かりません。

 僕の目標としては、本当なら全世界の自動車の1%に付けるという目標があったのですが、さすがにそれはまだ達成されていないので、この後も地道にやりたいと思っています。本当は自動車の標準装備にしたい。小型車のマーチとかヴィッツに、最初からこれが付いている、みたいな……。

 これの反省点としては、電源が乾電池なので、電池が切れると動かなくなってしまい、かなり寂しいことになってしちまうので、それは改善しなきゃなぁ、と。あと、当たっても痛くないように素材はウレタンになっていたり、盗難防止のためにわざと外れにくくなっていたり、商品にする際には、そういう工夫を色々としなくちゃいけないわけです。


2.4.3●「デザインと技術の共通領域」:「CHANEL Ginza Project」

次に行きます。これはアートだと自分では思っていないのですが、「デザインと技術の共通領域」というところでも活動していまして、今実際にやっているのが「CHANEL Ginza Project」【図6】【図6】クリックして拡大で、シャネルの銀座ビルのファサードの演出を、僕のチームでやっています。これは僕が直接アニメーションを作っているわけではないのですが、アートディレクターとして全部チェックして、監督しています。スクリーンの左側の写真を見ていただくと分かるように、このビルは上の方に行くにつれピッチが広くなっているので、見え方を事前にシミュレーションしてから上映するということで、専用のシミュレータを作ったりしました。

 これは、実際のビルではなくて、そのシミュレータを通した画像なのですが、昨年暮れの12月にやったものです。シャネルのような高級ブランドのファサードなので、万が一にも、NGなものを上映しない、というのがこのシミュレータを作った理由です。例えば円形のロゴとか実際に上方にスクロールしていくと形が途中で変形する可能性があるのですね。ぼくらが作った映像は、まずこのシミュレータを通してチェックした後上映するようにしています。これは銀座の方で実際にやっていて、月に1個か2個、新しいアニメーションが加わるようになっていますので、もしもお近くにお寄りの際は、ぜひ見てあげてください。


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2.4.4●「デザインとアートと技術の共通領域」
    『OpenSky』
    『OpenSky』Movie and Photo

そこで最後に(デザインとアートと技術の)真ん中に全部触れるものって、何かあったっけ? と考えてみて……唯一入れるとしたら、これかな? と思ったのが、今やっている『OpenSky』【図7】【図7】OpenSky_Moewe_1/2-2(撮影:森賢一)クリックして拡大というプロジェクトです。これは飛行機を作っています。一人乗りの小型飛行機で、ジェットエンジンが内蔵されていて、気軽に空が飛べる、そういう乗り物を作ってみたいな、と思ったわけです。

 当初は三菱重工とか石川島播磨とか川崎重工と共同でやれば、すぐにできるかな、と思っていたのですが、どうも違うらしいということが分かってきました。よくよく調べてみると、例えば日本では、独自設計の民間用の飛行機というのが今は一機も作られていません。だからこそ、個人的に飛行機を作って、それをテスト飛行して、飛ばすということに意味があるように思っていて、それをここ3年くらいかけて、ずうっとやっています。

 画面の下に出ているのが、試作2号機と試作1号機ですね。詳しい時期は言えないのですが、もうちょっとしたらテスト・フライトをする予定です。本当はそのテスト・パイロットも女性にする予定だったのですが……なぜ女性かというと、もともとこれは、「風の谷のナウシカ」の中に出てくるナウシカの愛機を参考にしているので、それから男が降りてきちゃいかんだろう、と強く思っていました。ですが、最近になって考え方が少し変わって、やっぱり「これマジで危ないわ!」ということに気づいてきて、自分の作品で他人が死ぬという事態だけはとにかく避けたいので、やっぱり自分が乗ることにしました。


2.4.5●まとめ……のようなもの:「テクノガジェットは、アートには“ならない”」

ではこの辺で、とりあえずのまとめに入ります。

 本日のお題である「テクノガジェットはアートになり得るか」について、個人的な見解としては、「ガジェットとしてまとめられたものは、アートではない」と僕は思っています。

 先ほどの土佐君の意見と対立するかもしれないのですが、機械で大量に量産されたものは、僕はアート作品そのものではないと思っているし、それを無理にアートと呼ばなくてもいいだろう、とも思っています。ただし、自分のいくつかの作品例から言っても、アートからスピンオフして商品ができることもあるし、商品にアートのエッセンスを入れることもできる。実際、ファッションがやっていることは、そういうことだと思うし、和菓子もまたそうだと思います。僕が主にやっているのは、商品開発の手法にアートのやりかたを導入することでして、それもまた有効だとは思っています。


2.4.6●明和電機:社長の「お祭り」理論

最後に、最近感銘を受けた話のひとつとして、「明和電機」という人がいるのですが(笑)……その人の出している「電協ジャーナル」(明和電機ファンクラブ会報)に載っていた記事で非常に良かったものがありました。  つまり、明和電機はアーティストであり、同時にパフォーミング・アーツもやり、グッズ開発もやるのですが、彼によれば、その活動全般は“お祭り”なんだそうです。まず、ご神体や神社の境内にあるものが、アートだ、と。ちなみにこれは、下北沢の「天狗まつり」の写真で、真ん中に天狗のご神体があります。そして、おみこし……これはアート・パフォーマンスだったりライブだ、と。

 では(今日のメインテーマにもなっている)アートグッズとかガジェットはどうかというと、例えばお祭りの際に売られている土産物だ、と。この三つが重なりあって、明和電機のアートの世界ができあがっているというふうな説明があって、「なるほどなぁ」と思って、今日は本人が出ているにもかかわらず、こういう説明をさせていただくのも何なのですが(笑)、僕の中でのアートグッズの立場というのは、お祭りに参加した人たちが縁日で、気軽にお金を出して買って、それを家に持って帰って楽しむ、というあたりにあるのではないかと思ったりしています。以上です。


草原:非常にロジカル、かつ、テーマに対する意見をズバリとありがとうございました。土佐さんがすでにマイクを手に持っていますね(笑)。じゃあ、モリワキさんの発表の前に一言コメントを、どうぞ。


土佐:いや、「明和電機っていいことを言うなぁ〜」って思って(笑)。


草原:それだけでいいのですか?(笑) では、後ほどのトークバトルを楽しみにするとして……プレゼンテーションの最後はモリワキさん、お願いします。