2005 [9th] Japan Media Arts Festival Device Art Symposium "Will Techno Gadgets Become an Art?"
Presentation
by Hiroyuki Moriwaki


平成17年度(第9回)文化庁メディア芸術祭
デバイスアートシンポジウム「テクノガジェットはアートになるか?」

プレゼンテーション:モリワキヒロユキ
2006年3月2日@東京都写真美術館


2.5■モリワキヒロユキ:プレゼンテーション

モリワキ:こんにちわ、モリワキです。皆さん、まとめるのが上手いのですが、僕はプレゼンの最後ですので、問題を投げかけながらいきたいと思います。僕も色々な作品を作り続けているのですが、ことデバイスアートと言われるような作品制作を始めてから……ところでその「デバイスアート」の語源がどこから来たのかが、ちょっと分からないのですが、ちなみにクワクボくんが最初に“デバイスアーティスト”って言い始めたのですか?


クワクボ:そんな話もあります。


モリワキ:「そんな話も」ですか? とまれ、定義づけも含め、これから徐々に体系化されていくと思うのですが、僕にとってのデバイスアートというのは、まずはハンダなんですね。基盤、電子パーツ……要するに電子デバイスにものすごく興味を持ちました。  ちなみに、僕の「心のふるさと」は秋葉原でして、もう20数年間は通い続けていて、自分の作品は秋葉原発のアートだと思っているくらいです。ところが最近、秋葉原の風景が変わりつつあって、「いやあ、秋葉原なんですよ」と言ったら「あなたソッチ系ですか」って(笑)。オタクはオタクでも、こちらはハンダオタクなわけであって、「ちょっと違う」と言いたいところなのですが……。話を戻しますと、初期の頃から、電子パーツそのものを作品にすることに取り組んできました。


2.5.1●『レイヨ=グラフィー(rayo=graphy)』

モリワキ:これは古い作品ですが『レイヨ=グラフィー』【図1】【図1】クリックして拡大という作品です。今、地下の展示室で『Tea for Angel』【図2】【図2】クリックして拡大【図3】【図3】クリックして拡大というインタラクティブ・テーブルが置いてありますが、それの原型になった作品です。数多くの電子パーツそのものによって構成されていて、ノンCPUなんですね。電子パーツそのものがハンダ付けによって組み上げられていて、それらがある働きをする。この場合は、観客の影に反応して、影の部分が光るようになっています。ちなみにこれらひとつひとつに発光ダイオード(LED)が使われているのですが、同じ場所に光センサーも使われていまして、数としては全部で4000個。4000個を、ひたすらハンダ付けしてできあがっている作品です。

 この『レイヨ=グラフィー』という作品名は、マン・レイという写真家へのオマージュとして、つけました。マン・レイは印画紙に直接プリントする「レイヨグラム」という技法を発表したのですが、マン・レイの場合は、印画紙に痕跡を定着させて作品になっていたのですが、僕の場合、それが「動きますよ」ということです。光を遮った影の部分が像になるわけで、それが刻一刻と変化をしていく……。そこで、マン・レイに対するオマージュと、「我々の時代は変化の時代である」という新しい時代の宣言ということもあって、『レイヨ=グラフィー』という名前を付けています。このような感じで、電子パーツそのものを作品にしていったわけです。


2.5.2●『夢を見る夢を見た…』

モリワキ:最初の『レイヨ=グラフィー』は、光センサーによって単純な反応を返す仕組みだったのですが、そのうち、それをもう少し発展できないかと考えまして、人からの刺激そのものの反応が、周囲にさらなる反応を呼んでいく、という形で、連鎖的に反応が伝わっていく作品(『夢を見る夢を見た…』)【図4】
【図4】クリックして拡大
【図5】
【図5】クリックして拡大
を作りました。スクリーンからパターンを見ることができると思うのですが、大きな電子回路のプリント基板に焼きつけられていて、それらのユニットがそれぞれ相互関係にあって、連鎖反応を起こすような作品になっています。

 そうした仕組みもさることながら、僕の興味は超巨大なプリント基板……これは50センチ×50センチで、工場で作れる最大サイズのプリント基板なのですが、それを焼きつけて、一種伝統工芸的な文様の美しさみたいなものや、パーツそのものを見せていく様子を、同時に表わしているわけです。



2.5.3●『Geo-Sphere』

モリワキ:ここまでは平面状だったのですが、今度はそれを立体化したいということで、ドーム状のものを作りまして、こういう形で発表しています(『Geo-Sphere』)。【図6】
【図6】クリックして拡大
これは3メートル×3メートルの大きなドームなのですが、この中に人が入り込むようになっています。ここで点々に見えるのが全てプリント基板で、それらが相互に全て接続されていて、中に入った人は好きなところのスイッチを押して、押したところから反応が広がっていく仕組みです。


八谷:内側が光るんですか?


モリワキ:はい、中に入って体験する作品になっています。ちなみにこの場合、基盤が1000枚で、LEDが6000個、ひたすらハンダでくっつけた……。


八谷:手で作ったのですか?


モリワキ:ええ、もちろんです。延々と手で作っていると、ロボットに憧れます(笑)。ある光の作家さんがいるのですが、その人と僕で(作品に用いる基盤やLEDの)数を競っていまして、そんなもので勝負しても仕方がないのですが……。


八谷:我慢大会みたいですね(笑)。


2.5.4●『Lake Awareness』

モリワキ:はい、今のところ、どっこいどっこいかな? それで、この後お見せするのは最近の作品になるのですが、これが去年、オーストリアのグラーツにある〈Kunsthaus GRAZ〉という美術館でやった時の模様なのですが、こんな感じの作品(『Lake Awareness』)【図7】【図7】クリックして拡大【図8】【図8】クリックして拡大で、先ほどお見せしたものがバージョン・アップした形になりました。原理的にはこれも同様で、反応が反応を呼んで光の波紋が広がっていく、連鎖反応による光の効果を表わした作品です。これは基盤が3000枚、LED1万2000個。「どうだ、もう追いつけまい」という(笑)、渾身の作として発表しました。

 この作品はすり鉢状になっていて、中に入るのが本来の鑑賞の仕方なのですね。中に入りますと、視界の全部の面が光に覆われる形になるのですが、その中で光の連鎖を楽しんでいく。アップの写真はこんな感じで、全てが連続している。作る側としては色々な思い入れがありまして、例えば人間の脳ミソなどというものも、こういう構成になっているわけです。中央制御によるひとつの意思によって全部がコントロールされているわけではなくて、お互いが並列な関係の中で影響しあいながら、心や感情が生まれているような不思議な状況なわけです。機械そのものと向き合いながら、例えば機械がいかにして生物化していくかというようなことを、僕は考えていきたいと思っていて、こんな作品に至っています。

 先ほどからずうっと強調していますけれど、僕にとっては「電子パーツがそのまま作品の姿になる」ということが非常に重要なことでして……それはなぜかというと、基本的にブラックボックスにしたくないんですね、テクノロジーが進めば進むほど、その中で行なわれていることが外部からよく分からなくなってくる。僕はそれに対して、ずうっと批判的な立場を取り続けてきたわけです。というのは「中で何が行なわれているのか分からない」と、マシンと人間との間に距離感が生まれてしまう。そうじゃなくて「ああ、これによってこういうことが起こっているのだ」といったことが分かった時、我々は信頼感を得ると思います。そこに「機械と人間とのつきあい方」のヒントが隠されていると思うので、やはりメッセージとして、この立場をずうっと発していかなければならないと思いつつ、こだわり続けています。

 あともうひとつは、先ほどから「ハンダ、ハンダ」と言っていますが、その「手で作る」行為が大事だろうとも思っています。地下の展示でも『モリワキット』という、私の電子パーツの作品をキット化したものを作りまして、製作体験ができるようになっています。つまり「自分で作って体験してみたら、もっとよく分かりますよ」というメッセージを出しているわけです。なぜかというと、手作りの中で、自分のテクノロジーを扱う感覚が身体化されるかどうかがものすごく大事だと思っているから。最先端技術が発達してゆけばゆくほど、どんどん実感が遠のいてしまうことがないように心掛けたいわけです。

 これが最後の作品(『Lake Awareness』)のムービーで、これを見ていただくと分かるように、非常に柔らかい感じで光の反応が広がっていきます。水の波紋が広がるような感じ、って言いますか……。


八谷:これはスイッチを押すのですか?


モリワキ:いや、非接触です。だから、手でなでるような感じで十分いけます。


八谷:下の『Tea for Angel』もすごくいい作品だと思うのですが、あれは、元の『レイヨ=グラフィー』の影の様子に戻っているようにも見えるのですが、やっぱり「非接触なのがいいなぁ」と、僕は思っていたので。特に外国とかで展示する時、メンテナンスができないことを考えると、非接触なのかな、って……。


モリワキ:10年前にデバイスで作ろうとしたら、そこまではできなかった。この10年間の技術的な進歩というのは、かなりあると思います。そういうことで、この作品は、僕の10年間の取り組みの集大成的な意味合いがあるのかもしれません。本当は10年前にここまでやりたかったのですが……。


八谷:色は1色なのですか?


モリワキ:いや、実は2色、ブルーとイエローを使っています。それらが混色すると(光の効果で)ホワイトになるわけです。その辺は狙ってやっていますけれど。で、こういった「ザ・デバイスアート」というか……(笑)。


八谷:挑戦状をたたきつけられましたね(笑)。


モリワキ:そういったものをやりつつ、別な方向でアート作品がもっと色々なところに出ていく必要があると思っていて、次に紹介するようなこともやっています。


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2.5.5●小林幸子電飾衣裳

モリワキ:これは、通称「6万個LED」というもので、NHK『紅白歌合戦』に小林幸子さんが出演した際の衣裳の中で、光っているものは、実は私が全部作っています。彼女の衣裳はファッション・デザイナーの桜井久美子さんがずうっと手掛けていたのですが、ファッションの世界の中でも、もっと新しいことができないかということで、いわば桜井さんとのコラボレート作品でもあります。コラボレーションですから、全ての製作過程の中で、ファッション・デザインと共に、光の効果を考えているわけで、決まったデザインに後付けで光を加えているわけではないのです。

 我々は都合10年間、小林幸子さんの紅白衣裳を10作品作ったわけですが、いわばそこで、ファッションの世界と、メディアアート……と呼んでいいのか分かりませんが、少なくともメディアの演出というものがいっしょになった時、きっとこれは、新しい世界がここに生まれたのではないかと思っています。もう、分類不可能?(笑)


八谷:舞台装置と衣裳がほとんど一体化している感じですよね。作業場も大変ですね。広くないと大きな作品って作れないし。


モリワキ:全部の作動テストをする時、スタジオを借りるのですが、写真はトラックから衣裳を下ろしているところです(笑)。これは、油圧ポンプで動かしているところです。あと、これがスタジオでのリハーサル風景なのですが、こういうことを何回か繰り返しやります。脚立に登らないと、衣裳がセッティングできない、という状態ですね。


草原:よく「動く舞台装置」とか言われていましたけれど、本当にそうなのですね。


モリワキ:はい。光のテストを繰り返しながら……これは編み込んでいる場面ですが、ここに写っている彼女が、衣裳デザイナーの桜井さんです。ちなみに、とある山本寛斎さんのイベントに出演した本田美奈子さん(去年、亡くなられましたが)の衣裳で、僕は初めて電飾服を作りました。それが僕の電飾服の原点で、それを製作したのが小林さんの衣裳デザイナーでもあったので、次は小林さんの紅白の衣裳を、という話の流れになったわけです。

 それで「ファッション界へのメディアアートの進出」みたいなことを考えていたわけですが、ひとつここでお話ししておきたいのは……先ほど世代間の話題が出ましたが、これは僕の友達の話なのですが、彼が「今年で90歳になるうちのお婆ちゃんが青森にいるのだけど、毎年暮れの『紅白歌合戦』に出る小林幸子の電飾衣裳を見るのが楽しみでしょうがない。だから(電飾衣裳と)いっしょに記念写真を撮らせてもらっていいですか? お婆ちゃんに送りたいから……」なんて言っていました。つまり青森の田舎のお婆ちゃんがメディアアート(と言っていいのか?)を楽しみにしているわけです。「えー!」みたいなね(笑)。これをメディアアートと言ってもいいのか、よく分かりませんが、世の中に出る出方としては、こういうのもアリなのではないかということです。

 僕らが衣裳制作の現場にいた時には全然意識していなかったのですが、「その年の一番新しいネタをここで披露しなければ」ということで「最先端の技術を紅白にぶつけるんだ」って一生懸命考えていたわけですけれど、そういう場所がちゃんと用意されたならば(紅白の小林幸子の時間帯は、最高で瞬間視聴率54.8%を取っていますので)かなりの波及効果があったと思うんですね。あらゆる世代の人が観てくれるような、そういう状況が生まれることもあるんだなぁ、と考えたりしています。



2.5.6●「光る掃除機」@ランデブー・プロジェクト

モリワキ:もうひとつ、ここでご紹介しておきたいのは、僕は次世代家電の開発プロジェクトにも参加しました。家電といいますと、ものすごい大量生産品ですよね。そういう大量生産の世界に、アーティストとして開発に関わるプロジェクトがありまして、最初にその枠組を簡単にご説明しておきます。

 ワコールアートセンターが「ランデブー・プロジェクト」というものを行なっていて、これが企業とアーティストを結んでプロダクト開発し、世の中に出そうというプロジェクトなのですが、それに加わらせていただきました。たしか、八谷さんも参加していましたよね?


八谷:はい、『ThanksTail』も最初はそれに参加していたのですけれど、あまり話が進まなかったので、勝手に自分で売り込みに行っちゃいました。


モリワキ:それで私の場合は、松下電器産業と合同でやらせてもらうことになって、結果、こういうものができました。3種類のプロジェクトが進みまして、ひとつはひびのこづえさんが炊飯器を担当して、四角い炊飯器のプロトタイプができました。もう一人、中原英隆くんが担当したのが加湿器。加湿器って、あまりいいデザインのものがなかったけれど、これは植木鉢風の加湿器で、この鉢のところに水を補充するような仕組みです。こうしたアイディアを、各自がこのプロジェクトの中で提案したわけです。

 僕は掃除機の担当になりまして、それでサムライのような掃除機『NEX.』【図9】【図9】クリックして拡大【図10】【図10】クリックして拡大を作ったわけです。普通、掃除機といいますと(なにせ掃除をするのは主婦の仕事ですから)女性向きみたいなことを考えます。だけどこれはそうじゃなくて「男でもやるぜ!」みたいな掃除機を作ってみたわけです。しかも、ゴミを吸い込むと、光る(笑)。これは外せないですよね。「光る掃除機」というものを作ってみたのですが、その時のプロモーション・ビデオがあるので、ちょっと観てください(ビデオ上映)。

 これが起動音です。掃除をするという実感がわくように、ノズルの中の空気の流れを視覚化して見せました。そしてゴミを吸った時、掃除機がそれを検知して赤い光を出すわけです。また、それがダスト・カウンターに溜まっていくことで、「吸っているな」「掃除しているな」ということがよく分かります。まず、コードレスであるということは、非常にアクティブに動くわけです。あとこれは、ゴミを吸った時にボディソニックが働きまして、ズンッと作業者の腰に響くわけですが……ちょっとやりすぎました(笑)。あとこれは、松下が商品化する際、ここだけ実現化していましたよね。スティック・ノズル状態になっています。だいたい掃除をしていると、この隙間ノズルを交換するのが非常に面倒くさいですよね。そこで、そういう面倒くささがないように、最初から二刀流にしています。

 では、掃除機のプロトタイプがありますので、お見せしたいと思います。あちらから登場してきます。ではスイッチをONにして、ちょっと会場の電灯を暗くしてもらえますか? これが吸っている状態です。たまに赤い光が出ます。で、ここのところに反動がズンとくるわけです。これには色々な仕掛けがあるのですが、動き回りやすいようにするために腰に装着する形にしたり、ツインノズルにしたりといった基本的なところと、光を用いるながら掃除する実感ということも大切にしたものです。

 今、掃除機開発の最前線といいますと「ロボット掃除機」がありますね。スイッチを入れるだけで自動的に掃除して回る掃除機がありますけれど、あの考え方の元にあるのは「掃除というのは嫌なものなのだ」「なるべくならやりたくない」という発想なのですが、そうじゃなくて「どうせやるなら、掃除というものを(人間の行為として)楽しんでやろうじゃないか」というのがこの製品のコンセプトだったりします。