Device Art Symposium "The Relation Between Art and Objects"
Presentation
by Kazuhiko Hachiya


「予感研究所・2006」

プレゼンテーション:八谷和彦
2006年5月7日@日本科学未来館7F:みらいCANホール

草原:ではパネル・ディスカッションを始めます。前回は時間が足りなかったのですが(また今回は、明和電機の土佐さんが九州に出張されていて、参加できないのが非常に残念なのですが)、八谷和彦さん、クワクボリョウタさん、児玉幸子さんのお三方にメインに話をしていただき、あとでマイクを回しますので、フロアからの乱入も歓迎いたします。最初に、パネリストのみなさんの簡単なプレゼンテーションから……ということで、まずは八谷さんからお願いします。


3.1■八谷和彦:プレゼンテーション

八谷:八谷です。このデバイスアート・シンポジウムのパネル・ディスカッションは以前、東京都写真美術館で一度やったのですが、今日ここにいらっしゃる方はその時に来られていた方ばかりでは当然なさそうですので、(内容はその時とほぼ同じなのですが)私の作品の作り方と、それがどのような考え方で作られているかを、簡単に説明します。

 僕の作品の場合、いくつかの要素がありまして、簡単に言うと「技術」と「アート」と「デザイン」のいずれかにまたがるようなものを作ろうと思っています【図1】
【図1】クリックして拡大
。ひとつは技術(テクノロジー)とアートの共有領域、もうひとつはアートとデザインの共有領域、最後にデザインと技術の共有領域。3番目は、デザイナーとしての仕事になるのですが、僕は自分のことをあまり厳密にアーティストだと定義してはいなくて、デザインの仕事もやります。


3.1.1●「技術とアートの共有領域」
    『視聴覚交換マシン』
    『Psycho Communicator System』

ひとつずつ事例を説明してみます。まず技術とアートの共有領域として、メディアアートや特殊な体験のための装置をいくつか作っています。

これが先ほど岩田先生のスライドにも出ていました『視聴覚交換マシン』【図2】【図2】視聴覚交換マシン(撮影:黒川未来夫)クリックして拡大という作品で、このあいだ丸ビルでも展示しました。今、二人の人が体験していますけれど、二人の人間の視点を交換する作品なんですね。そうすると予測もつかないことが起こる、といいますが、実際には動けなくなってしまう。だけど、二人でコミュニケーションしていくうち、ちょっとずつ動けるようになっていく、そういうタイプの作品です。これを作ったのは13年前の1993年だったのですが、基本的にはデジタル機器を一切使っていないので、実は今も劣化していない、という特徴があります。実は自分の作品中、デジタル作品ってあまり多くなくて、けっこうアナログのものが多かったりします。

 同様のタイプの作品として『Psycho Communicator System』【図3】【図3】クリックして拡大。これは『機動戦士ガンダム』というアニメーションの世界の中に出てくる“サイコミュ” (Psycomu)という武器のオリジナルを想定して、実はそれが測定装置だった、という前提で作った作品です。二人の体験者のどちらかの人が顔を動かすと、そちらの方向に引っぱられるように、もう一方の人の身体が勝手に動いてしまう、という装置です。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の前田太郎さんという、我々のデバイスアートのチームにも入っている研究者の方がいらっしゃるのですが、その方と共同で作った作品です。

 「ガンダム展」というものが日本各地を巡回してまして……今はちょうど、せんだいメディアテークで公開されているのですが、その前は上野の森美術館でやっていました。この「ガンダム展」というのは、いわゆるキャラ展と言われる展覧会で……実はこれ、日本にしかない特殊な形の展覧会だと僕は思うのですが、前田さんのような「アートには興味がないけれど、ガンダムには興味がある」人と組むには、非常にいい機会だった(笑)ので、この作品を「ガンダム展」委員会に提案して、やらせていただきました。


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3.1.2●「アートとデザインの共有領域」
    『PostPet』
    『ThanksTail』

持ち時間もあまりないのでサクサクと進めますが、次が「アートとデザインの共有領域」……ここがデバイスアートということと一番関係が深い領域だと思っています。例えばアートを商品化したり、あるいはアートからスピンオフして商品ができる、そういったものもいくつか作っています。

 これが『PostPet』【図4】【図4】PostPet(c)So-net Entertainment Corporationクリックして拡大、僕の作品の中でも最も有名な作品だと思うのですが、ピンク色をしたクマのモモちゃんがメールを運ぶソフトです。1997年に最初のバージョンを出して、それから3〜4年に一回ずつアップデート版を作っているのですが、画面右上のものが『PostPet v3』【図5】【図5】PostPet_V3(c)So-net Entertainment Corporationクリックして拡大という、一番新しい(といっても3〜4年前ですが)バージョンで、ポリゴンで動くようになっていたり、キャラクターに色々なアクセサリーをつけることができるようになっています。

 いわゆるメーラーソフトなのですが、メーラーとコンピュータ・ゲームが合わさっているようなところもありまして、人の家に行くのに、わざと怖い格好をして相手のペットを驚かしたり、あるいはカメラという遊具(アクセサリー)をつけていくと、相手の家の家具やキャラクターを撮影して帰ってきたりできる。そうしたネットワーク・ゲームっぽい要素をメールソフトに取り入れているところがあります。

 あと、『PostPet』の一番大きな特色としては、誤配をするメーラーといいますか、ペットが勝手に自分の飼い主の友達にメールを出したりするのです。そういうことは、もともとはコンピュータ・ウイルスがやっていたことだったりしたのですが、いかにしてそれをエンターテインメントの中で成立させるか、みたいなことを考えて作った作品でもあります。だから、かなりヤバいことをやっているのだけれど、可愛い外観でごまかせ! みたいな(笑)、そういう考え方で作ったものです。

 次が『ThanksTail』【図6】【図6】ThanksTails(撮影:牧原利明)クリックして拡大です。これも『PostPet』と非常に似ていて、アーティストがコミュニケーション・ツールを作る、という考え方の作品です。見て分かる通り、車(自動車)に尻尾をつけるというプロジェクトで、目標としては全世界の車の10%にこの尻尾をつけたところでプロジェクト終了なのですが、まだ全然そこまで行ってないので、今後もずうっと継続していくと思います。

 ちなみに製品版も一応ありまして、2004年の末に『ThanksTail』の一番最初のバージョンが商品として出ているのですが、これ(の販売数)が1万も行かなかったので……実は『PostPet』は100万本以上売れているのですが……それと比べても目標が達成できていないので、今後も頑張ってやっていきたいな、と思っています。

 コンセプトとしては、「車が『ありがとう』を言うためのツールを作る」ということですね。車には「警告」のためのツールはたくさんついているのに「ありがとう」ということが言えない。どこの国の言語にも「ありがとう」という単語はあると思うのですが、それがない自動車の社会というのは非常に野蛮なんじゃないかと思って、そういうものとして作りました。  今、上映中のデモンストレーション・ビデオは、観た人に笑ってもらおうと思って作ったのでおかしな雰囲気ですけれど、志としては割りとシリアスで、たとえば日本の年間の交通事故者数は、死者数でいうと一年間で7702人。この数字は年々少しずつ減少してきているのですが、その裏にはトリックがあるのではないかと思って調べてみると、やはりそれは即死者の数で、医療技術の発達によって死者数が減っているという局面もあるのですね。だからそれをちゃんとカウントしてみると、事故から1ヶ月以内の死者数が8877人……約10%強、増えます。さらにその後、事故後1年間の死者数にすると、これが1万人をオーバーしてしまう。死者だけではなくて、交通事故の発生件数で見ると、年間94万7993件。負傷者数で見ると年間118万1431人。ということは、日本人の約100人にひとりは、年に1回は自動車事故で怪我をしてしまうという、恐ろしい数字なのですね。

 そういう目で見ても、自動車に対して、あるいは道路という環境に対して、やるべき仕事はたくさんあるのではないかと思って考えたのが、この『ThanksTail』です。道路をジェントルな空間にするということも、Safetyのひとつとして考えられるのではないかと思って作ったものです。


3.1.3●「デザインと技術の共有領域」:「シャネル・ファサード・プレビュー」

そして「デザインと技術の共有領域」……これは自分がデザイナーとしてやっている仕事でもああります。これは銀座にあるシャネルのビルのファサードのアニメーションを、僕とアニメーターで製作しています。今(スクリーンに)出ているのは「シャネル・ファサード・プレビュー」(Chanel FacadePreview)【図7】
【図7】クリックして拡大
という、シャネルのために作った専用ソフトウェアなのですが、シミュレータで作って、アニメーションを確認してから、最終的に実際のファサードで流すようにしています。

 これが昨年の12月に、シャネル銀座ビルで流したアニメーションなのですが、左の図で分かるように、ドットの配置が均等ではなくて、上のほうはけっこうまばらになっていたりします。その辺りで、色々な角度からの見え方とか、違和感がないかを確認するためのシミュレータとして、専用ソフトを作りました。


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3.1.4●「デザインとアートと技術の共通領域」
    『OpenSky』
    『OpenSky』Movie and Photo

最後に、そういえばこのベン図の真ん中(デザインとアートと技術の共通領域)って、あったっけ? と色々と考えてみたのですが、自分の中で一番考えられることとしては、今、実際に乗って空を飛べる飛行機を自作する『OpenSky』プロジェクトというものをやっています【図8】【図8】OpenSky_Moewe_1/2-2(撮影:森賢一)クリックして拡大

 一番左上の図が、2003年4月7日、約3年前にプロジェクトを始めた時に作った、2分の1サイズの実験機です。これには人は乗っていません。で、これから3年ほどかけて、人間が乗れるものを実際に作っています。

 なぜ、こんなことをやろうとしたかといいますと、ひとつはみなさん見てお分かりのように『風の谷のナウシカ』という宮崎駿さんの有名なアニメの中で、主人公のナウシカが乗っていたメーヴェという飛行機が欲しいなあ……って、そういうベタな気持ちがまずはありました。

 もうひとつは、これはその事実を知ったとき、僕はけっこうびっくりしたのですが、日本では民間用の飛行機というものを今は一機も作っていないのですね。それで、日本は技術立国と言っているけれど、果たしてそうなのかという、そもそもの根底の疑問が、このころから僕の中で生まれたのです。飛行機を作れない理由はなぜなのか? といって色々調べていくと、アメリカと日本との関係とか……それは別にアメリカが悪いと言いたいわけではなくて、日本国、あるいは日本人自身が、自己催眠として「できない」と思い込んでいる部分があると思っているのです。それをアーティストの立場からリリース(解放)するというような、そういうものとして考えています。

 今、スクリーンの右下のほうに、去年の秋に展示したものが写っていますが、これを飛ばした時の記録映像があるので、お見せします。先月末、4月21日に飛ばしました。これに乗っているのは、僕です。(映像流れる)一見、とても簡単に飛んでいるように見えますが、やっぱりここまで来るのは大変でした。これは一番最初の飛行テストで、この後、今後1年ぐらいかけて、ちょっとずつ高度を上げていこうと思います。あと、今はまっすぐ飛んでいるだけですけど、S字ターンとか360度ターンとかができたら、ジェットエンジンを搭載して、実際にセルフ・ローンチ(自力飛行)するわけですが、まず機体の安定性を検証するためにも、一番最初はまずゴムで引っぱって飛ばします。その一番最初のテストです。  この時はコンディションが良かったこともあって、割りと一発目でちゃんと飛んだのですが、このゴム索曳航というのは、戦前のグライダー訓練に使われていたやり方で、今、こんなやり方で飛行機を試作して飛ばそうとする人はほとんどいません(笑)。ただし、自分たちの実力をきちんと自覚して、でも、ビギナーとしてゼロから始めるということは、実はすごく楽しいことだと思っています。さっきお見せしました『PostPet』にしても、それまで僕はソフトウェアとか1個も作ったことがないのに、作りました。つまり素人の立場からものを作るのが好きなタチなのです。そういう考えで今回も、飛行機を作っています。そうすると、プロの人が考えない、あるいはプロの人が最初から「できない」と思っていることが、案外できたりとかするのですが、そういうブレイクスルーを起こすのもアーティストの仕事なのではないかと思っています。


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3.1.5●「テクノガジェットはアートになるか?」「アートとモノの関係を考える」

時間が長くなってしまったので先を急ぎますが……これは前回の「テクノガジェットはアートになるか?」という草原先生のクエスチョンがあって、それに対する個人的な雑感をまとめたものですが、僕の考えでは、量産品はアート作品やアートそのものには「ならない」と思っています。「ただし」というのが付くのですが……ただし、アートからスピンオフして商品ができることはあるし(これは『PostPet』や『ThanksTail』は実際にそういうものとして作っているからです)、また、商品にアートのエッセンスを入れることによって、普通の商品ではないものができあがるという面で有効だとは思っています。

 あと、これは今日会場に来ていない、明和電機の土佐信道社長が前に「お祭り仮説」みたいな話をしていたことを図にしたものですが、要するにアートというのはご神体である、と。コンセプトやフィロソフィーを提示することそのものがアートであって、それは直接的には商品ではない。ただし、例えば日本の祭りの場合、おみこしというものがあって、みんなでそれをワッショイワッショイと担ぐわけですが、そういうパフォーマンスやライブみたいな行為は、いわばアプリケーションとしてあるし、あるいは会場の周囲や参道に縁日が出て色々なものを売ったりすることは、アートグッズの販売として考えられるのではないか……と彼が言っていて、それは僕もそうだなぁと同意しています。

 そして、今日の問い「アートとモノの関係を考える」……これは後で改めて詳しくお話ししますが、アートというのは非常に自由で、基本的に何を作っても許されると僕は思っています。ただ、何を作ってもいい代わりに、非常に厳しい批評も受けるし、あるいはお客さんが受け入れてくれるかどうかに関しても、別に楽な場所ではないと思います。そういうふうに、アートの場合は批評があるし、商品は商品でマーケットというフィードバックの場所がある。たとえばそれは、今日ここに展示されている作品にも言えることなのですが、実際にそれら作品を鍛える場所というのは絶対に必要なのではないか、というのが僕の考えで、そのへんを今日の後半でお話しできれば、と思っています。


3.1.6●コロボックルのテーブル(『Fairy Finder』)
    『Fairy Finder』

最後に、今回の『デバイスアート展』に僕が出品したコロボックルのテーブル(『Fairy Finder』【図9】
【図9】table_of_the_Colobockle(撮影:米倉裕貴)クリックして拡大
)を少しだけお見せします。5階のカフェにありますので、お時間のある方はぜひご覧になってください。

 これはジオラマが組み込まれたテーブルに見えるのですが、そこに特別なコースターが置いてあって、そのコースターを通すと下に「あら不思議、小さな妖精が!」みたいな(笑)作品です。これは「心のきれいな人にしか見れない」、ということもないので、後でぜひ見てみてください。

 実は最近、「不可視なものの存在」みたいなことをよく考えていまして、それがこの作品に反映されています。それは僕に子供が生まれたこともあって、妖精やお化け、あるいは妖怪……さらに言えば宗教もそうだと思いますが、そういった科学では説明のつかないものや、合理的ではない存在を、なぜ人は大事にしてきたのか、もしくはそれらに惹かれるのか? ということをずうっと考えていることとも関係があります。以上です(拍手)。


草原:最初の八谷さんの図は、「今回もお願いします」と私からもリクエストを出していたので、非常に充実した発表だったと思います。色々なテーマや考えるべき問題が出てきたので、これらはぜひとも後半のディスカッションで展開したいです。では次にクワクボさん、お願いします。


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