Device Art CREST Symposium: "Ferrofluid Sculpture"
by Sachiko Kodama


デバイスアートCRESTシンポジウム

「磁性流体彫刻」を中心に

プレゼンテーション:児玉幸子(電気通信大学人間コミュニケーション学科)
2007年5月18日@秋葉原UDX4F:アキバ3Dシアター

児玉:私が今現在、最も注力している「磁性流体アート」のプロジェクトについてお話しいたします。


3.1●「磁性流体アート」

 私のデバイスアートへのアプローチは、この磁性流体アートから始まりました。英語では「Magnetic Fluid Art」あるいは「Ferrofluid Art」という呼び方になります。黒い色をした液体素材である磁性流体を使ったアートで、今までこういう「Ferrofluid Art」なる名称というのは、ありませんでした。こういう「何々アート」というのは、昔から……それこそ「ホログラフィ・アート」とか色々あったので、言い方としては古いかな、と思っているのですが、こうとしか呼びようがないので、とりあえず「Ferrofluid Art」と呼んでいます。

 作品は、ダイナミックに流動して変形するスパイク形状を、すべてが持っています。この「磁性流体」とはコロイド溶液で、直径が10nm(ナノメートル)ぐらいの、磁性体の超微粒子が溶け込んだものです。私が使っているものには、酸化鉄の微粒子が入っています。微粒子は液体分散媒に溶け込んでいて、粒子の表面をコーティングする界面活性剤が付いています。界面活性剤があるためにコロイド状に均一に分散することができる、という特徴があります。

 私はこのプロジェクトを平成12年に、電気通信大学を拠点に始めました。プロジェクトのコンセプトは、液体ならではのダイナミックな造形を体感するインタラクティブ・アートを制作する、というものです。


3.2●『突き出す、流れる』(2001)
    『突き出す、流れる』
 まだCRESTが始まる前の2001年に作った『突き出す、流れる』【図1】
【図1】クリックして拡大
という作品があります。竹野美奈子さんとのコラボレーションで、6つの直流電磁石を使って空間的に電磁石を配置し、磁性流体の立体形状を制御しました。この時にはマイクロフォンで環境音をリアルタイムに取り込んで、その音の大きさに合わせて、次にどのような形状をするかを決めていました。実際の磁性流体の部分は15cm×15cmくらいのサイズでものが動くので、後ろの方から見るとちょっと見にくいので、磁性流体の映像を大きなスクリーンにリアルタイムに投影して、インスタレーションとして展示しました【図2】【図2】クリックして拡大

 この時は「次にどういう形になるか?」と期待して、お客さんが作品に話しかけてくれたり、歌を歌ったり、口笛を吹いたりしたのですが、音の大きさに反応する液体といっても、即座に反応するわけにはいかなくて、だいたい0.2〜0.3秒ぐらい若干遅れて、流体の動きが付いてくるという印象を受けていたようです。それは、私のやり方にも問題があったのですが、ただこの「遅れて付いてくる」というタイムラグがあるせいで、観ている人は「次にどういう形になるのだろう?」という想像力を膨らませて、色々と試してくれました。



3.3●デバイスアートとしての展開(1) 『脈動する──壁に耳あり(移送空間)』(2006)

 この作品[スクリーン]はCRESTが始まってからの、比較的最近のもので、デバイスアートとしての展開で『脈動する──壁に耳あり(移送空間)』【図3】
【図3】クリックして拡大
という作品を作りました。都城市立美術館で開催された「南九州の現代作家たち」という展覧会に出品したものです。ご覧のように、壁に小さな、人間の耳型の形をしたオブジェを付けて、その耳に向かって人が話しかけると、白い皿の中に入れてある磁性流体から、トゲトゲがムクムクと出てくる。この作品も、『突き出す、流れる』という作品と基本的には同じ技術原理を使っています。ただ、作品の意図することは、もっと日々の日常の感覚に近いものです。耳のすぐ近くまで近寄らないと、話しかけた音を認識できないように……音の大きさに制限を設けていて、かなり近寄って聞かせる声でないと、磁性流体のトゲが動かない仕組みにしています。白い部屋の中は、椅子や皿が壁にくっついていて……しかも、間隔が次第に狭まる蛍光灯が、一列だけ、奥の壁にくっついているために、何かこう、巨人が壁の後ろからズリズリズリっと天井を引っ張っているみたいな感じで、部屋の中の重力がおかしくて、曲がってしまったような錯覚を起こす、シュールな部屋にしました。

 これ[スクリーン]が実際に耳に話しかけて、ダイニングテーブルの中の皿の流体のトゲトゲを出している風景です。たくさんのお客さんに来ていただきました。幼稚園の遠足とか、小学生の皆さんにも大勢来ていただけました。


 またこの展覧会では、私の他の作品も出しました。スポットライトの下にあるのが『モルフォタワー』【図4】【図4】クリックして拡大で、その奥にあるのが映像作品の『呼吸するカオス(Breathing Chaos)』【図5】【図5】クリックして拡大です。これらも磁性流体アートプロジェクトの一環で作った作品です。

 そして、非常に画期的だったこととして……私はそれまで磁性流体のプロジェクトでワークショップを全くやったことがなかったのですが、この展覧会の時、学芸員さんが「ワークショップをやりませんか」と誘ってくださったのです。40人の生徒さんに、磁性流体を使って小さなオブジェを作ってもらいました。この時に使ったのは100円ショップで売っていたオルゴールで、オルゴールがクルクルと機械的に回ることによって磁石が動き、ビーカーの中に入っている磁性流体のトゲトゲのボールが、それに追随してグルグル動くという「磁性流体オルゴール」を作ってもらいました。

 こんな感じで、普通の小さな四角とか円柱状の磁石を入れても、まん丸の球になって、音を鳴らしながら、クルクルと動きます。


3.4●デバイスアートとしての展開(2)「モルフォタワーシリーズ」
    「モルフォタワーシリーズ」 (その1)
    「モルフォタワーシリーズ」 (その2)
 今のような作品の展開の他に、「モルフォタワーシリーズ」という連作を、デバイスアートとして作りました。これには「磁性流体彫刻」という新しいテクニックがベースになっています。

 最初に2005年の『モルフォタワー』。これは、容器に私がタイルを貼って、そのタイルの中に、磁性流体を入れてトゲトゲのタワーを立てました【図6】
【図6】クリックして拡大
。だけど、出来映えが今ひとつだったので、次に、黒い球体の形をした石の中にタワーを立てました。《SIGGRAPH》2006年のアートギャラリーに出品した、スクリーン中央の『モルフォタワー』です【図7】
【図7】クリックして拡大
。そして(スクリーン)右のタワーは、それよりも2/3ぐらい……約25cmの高さのサイズで、ガラスドームを被ったカプセル型の『モルフォタワー』となっています。この一番右側の『モルフォタワー』は、真ん中の鉄芯の部分にフッ素コーティングで白い色を塗っています。それによって、黒い液体が登っていくと真っ黒いトゲトゲに覆われるけれども、それが降りきった時にはまた、白い地の模様が出てくるという、コントラストの強い蛇の目模様の効果が得られます【図8】【図8】クリックして拡大

 ちなみに、これが磁性流体彫刻の技術的な基本構成です【図9】【図9】クリックして拡大。パソコンが1台あって、それにマイコンが接続させており、このマイコンで直流電源を制御しているという、とても簡単な仕組みです。そして1個の電磁石を使って、真ん中の鉄芯の部分を彫刻する。この彫刻の部分にどのような加工を施すかで、トゲトゲが上昇していくルートなどが変わってきます。この図の中の「?(はてな)」の部分を色々と工夫しなければいけないわけです。作品に用いるセンシング・デバイスは、様々なものを使って作品に変化をつけることができます。今、私は、手のひらに乗るようなサイズのこのミニPCを使っていて、なるべく小型化して簡単に組み立てることができるようにしています。


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3.5●「磁性流体彫刻」に展開

 磁性流体彫刻がどういうものかという、アートではなく、テクニックにおけるコンセプトを説明します。鉄等の軟磁性材料を彫刻して磁性体の表面と内部の磁場を制御することによって、表面上に磁性流体を流動させる、アートのための表現技法……つまり「液体による彫刻」ということです。「磁場の強さと彫刻の形状によって運動や大きさに規則性を持たせた磁性流体の棘の生成が可能である」と。今この図に出ているのは、円錐に螺旋の溝を刻んだタイプですが、一番最初は、溝のないものを作りました。そうすると磁場を強めていった時に、真っすぐ上にスパイクが登っていきます。螺旋状の溝をつけると、溝に沿って回転しながらスパイクが上に登っていきます。非常に簡単なテクニックなのですが、こういったものを作りました。この螺旋とか円錐がシリーズの最後の形状ではないと思っていて、もっと複雑な形状で、かつ、たったひとつの電磁石で、磁場を電磁石によって強めていった時に、重力に逆らいつつ彫刻の頂上までいかに登らせるかを考案中です(これらはあくまでもテクニックの説明で、これがこのまま、作品として私が考えているテーマではありません。アートの実現のためにテクニックを考案したので、報告しています)。


3.6●『モルフォタワー/二つの立てる渦』(2006〜2007)

 これ[スクリーン]が『モルフォタワー』のシリーズの一番新しい作品で、磁性流体の入れ物の表面を広くして……今までのものだと、塔の周りに直径30cmぐらいの池でしたが、この場合は1m四方のプレートに磁性流体を流し込み、艶やかな照りのある表面を広く見せるインスタレーションにしようと考えています。このイメージビデオを作りました。『モルフォタワー/二つの立てる渦(Morpho Towers─Two Standing Spirals)』【図10】【図10】クリックして拡大【図11】【図11】クリックして拡大という題名の作品です。ちょっとご覧ください[ビデオ上映]。


3.7●音楽メタデータを用いた流体の制御

 今ご覧になった最新作には、Sony CSLの宮島靖さんとコラボレーションを行なって、流体の制御に新しい方法論を導入しようと考えています。新しい方法は「音楽メタデータ」というものを使って……先ほどの『突き出す、流れる』の時には流体で動きに遅延が見られたのですが……音楽にきっちりと同期した液体の動きが、「音楽メタデータ」を使う手法では、この磁性流体彫刻に対して可能になるであろう、ということです。予め、音楽のビート情報とかコード情報を付与することで、最終的には自分の好きな音楽を入れ替えつつ、磁性流体アートを楽しむことができるようなデバイスアートが作れるのではないかと考えているところです。


3.8●磁性流体アートプロジェクトの課題

 最後に、今後の課題ですが、小さな『モルフォタワー』……ちょうど手のひらサイズの『モルフォタワー』を作りたいです。そのくらいサイズを小さくすることによって、作品が世の中に広まるといいなと考えています。インターネットのサイトでは、「Ferrofluid Art」あるいは「Ferrofluid Sculpture」という単語が数多くヒットするようになってきていますので、色々な人が世界のあちこちで似たような試みを始めているようです。そうした動向とも連動して、普及していけたら……と思っています。

 あとは、規模の大きなインスタレーションも続けますし、自由な……とまではいかないかもしれませんが、より複雑で有機的な形の磁性流体彫刻を作っていけたらと思います。この「磁性流体アート」の他にもCRESTで私が試みていることは幾つもありますが、今日はメインで取り組んでいるこのプロジェクトの報告に絞って、私の発表はこれで終わります。