CREST Project
Device Art Symposium "Reflections on Commercializing Media Art"
Overview
by Hiroo Iwata


CRESTプロジェクト
デバイスアートシンポジウム「メディアアートを商品化するということ」

オーバービュー:岩田洋夫
2007年9月30日@日本科学未来館7F:みらいCANホール


1■岩田洋夫:オーバービュー

岩田:みなさん、こんにちは。筑波大学の岩田です。このシンポジウムは、今、イノベーションホールで開催されております「デバイスアート展」の関連行事として行なっておりますけれど、このシンポジウムも「デバイスアート展」の展覧会も、それから昨日と今日の午前中にありました明和電機のワークショップも、すべて「CREST」という科学技術振興機構のプロジェクトの活動の一環として行なってきております。そのテーマが「デバイスアートにおける表現系科学技術の創成」というもので、私が研究代表者をしております。


1.1●デバイスアートとは

まず、「デバイスアートとは」という意味について、若干コメントしたいと思います。これは新しい言葉でして、あえて定義するならば「メカトロ技術や素材技術を駆使し、テクノロジーを見える形でアートにしていくメディアアート作品」と言うことができます。そして、その特徴として、3つ挙げられます。

 まず第1点は「デバイス自体がコンテンツ」ということ。従来、アートと言いますと、道具/ツールがあって、それを使って作品/コンテンツを作るという、「ツール」と「コンテンツ」の2分化が進んできたわけですが、このデバイスアートでは、あえてそれを渾然一体化するところが重要なポイントです。

 それから2番目の特徴として、「作品がプレイフルである」ということ。鑑賞者が体験しながら、自分なりの面白さを色々と発見できるところが重要であります。それから、そういったプレイフルな作品がどんどん積極的に商品化されるところも、特徴のひとつです。そして今日のシンポジウムでは、「その商品化というものに、どういう問題点があるのか」ということについて議論することが主たるポイントです。

 そして3番目のポイント。これは「道具への美意識」という、日本古来の文化との関連性が強いことです。近年《SIGGRAPH》や、《Ars Electronica》といった、いわゆるメディアアートやインタラクティブアートの世界的なコンペティションの中でも日本人作品の活躍が顕著であるということで、海外からも非常に注目されています。その背景には、やっぱりモノ作りの文化という、一種の日本固有の文化があるのではないか、ということです。

 これら3つの特徴は、従来の西洋芸術にはなかったし、これまで議論も十分にされてこなかったというわけで、この「デバイスアート」という一種の芸術運動が現在、非常に注目を集めているわけです。


1.2●「デバイスアート・プロジェクト」の目標と研究項目

では、このプロジェクトが目指すものを簡単にご紹介いたします。平成17年度に発足しまして、約5年半、つまり平成22年度まで続きます。総額で約4億円の予算が投入されて、この技術開発を行なうということです。  具体的な目標は2つあります。まず第1点、これは「デバイスアートにおける技術体系を明らかにする」ということ。つまり、デバイスアートで使われる技術を整理し、体系化するということが第1点。そして2番目の目標が「デバイスアートの制作・評価の方法論を構築する」ということ。これまで実際にデバイスアートを作ってきた人は、みなさん天才だったわけですね。天才の方々にとっては、方法論など必要ないわけですが、これから始めようという学生さんとかにとっては、何にも手がかりがなかったらやっぱり困る、というわけで、制作上の方法論や評価の仕方を何らかの形で明らかにしていこうというのが、2番目の重要な目標です。

 特にプロジェクト自体が評価を受けるわけなのですけれど、どういう評価を受けたいかということも、このCRESTプロジェクト全体の委員会がこれからできるので、そこで議論が始まりつつあります。

 さて、2つの目標をちょっと堅苦しい言葉で今申しあげましたが、これを平たい言葉で言い直すと、「従来、散発的な作品発表は色々あったけれど、このままではそれだけで終わってしまう。世の中に(デバイスアートを)ちゃんと根を付かせるためには何をすべきか? ここで、我々で手を打とう」というのが、このプロジェクトの目指すところであります。


 そこで実際、どういうことをやっているのかというと、大きく分けて3つの研究項目があります。まず、とにかく高度なものをどんどん作っていこうというのが第1点。2番目は、その高度なものができるためには、どういう要素技術が必要かということ。まあ、ネタになるもの、種(たね)、元になるものが必要なわけで、それを我々は「機能モジュール」と呼んでいます。こういうデバイスアートを初めて作ろうという人が、なるべく簡単に作品を作れるようにするためには何が必要かということから、この「機能モジュール」の開発に行き着いたわけです。先ほどから申しあげていますように、デバイスアートには「積極的に商品化する」という特徴があるわけですが、そうした「製品化」の一歩手前のプロトタイプも作っていこうという目標があります。そして3番目が「方法論の構築」。これは調査研究とか、鑑賞者の生体情報の計測といった多面的な評価手法を導入して、デバイスアートの評価手法や方法論について考察していこうというわけです。

 その上で実際に、こうしたデバイスアートに深く関わってきたメンバーを9人結集しまして、それぞれで芸術系のバックグラウンドの人と工学系のバックグラウンドの人が合同チームを組むような形を取ってもらい、先ほどの3つの研究項目に取り組んでいるわけです。

 特に今日、この後で発表していただくのは、土佐さん、クワクボさん、八谷さんですね。いずれも機能モジュールと製品化のプロトタイプについて、このプロジェクトの中で担当されているアーティストの皆さんでして、すでにこのプロジェクトが始まる以前から、商品開発についても実績のある方々です。ですので、このプロジェクトに関連して(製品化には)どのような問題点があるのかについてもお話いただけるかと思います。



1.3●「芸術性の高いハードウェア」という新しい分野

最後に「商品化することの意義」について、少しだけコメントさせていただきます。商品化に成功すれば当然社会に普及するわけで、一般家庭でも使われるようなものができるわけです。そうすると、大変多くの数の商品が世の中に出回るわけで、それを作る会社もそれなりに利益を得、みんなが儲かるという、経済効果の波及があるわけです。

 もう1点、文化的な視点からすると、これは芸術運動としても歴史に残る(かも)。ここでは括弧で(かも)と書きましたが、それだけのポテンシャルがあるかな、と思います。従来、芸術作品を積極的に商品化して成功した例は非常に少ないと思います。「ほとんどない」と言っても過言ではない。先ほどの草原先生のコメントにもありましたように、日本がその点では一番進んでいるんですね。そこで1番進んでいるグループを結集して、なんとかブレークスルーしようというのが、このプロジェクトのひとつの狙いでもあります。これに成功すれば、おそらく後世の人から見て「商品化に成功した芸術運動」ということで歴史に残るのではないか、というふうに期待しております。

 じゃあ、そういう試みに成功したら世の中がどう変わるかということで、現在の市場を整理したのがこの図[スクリーン]です。横軸が、芸術性が高い/低い。向かって左側が低くて、右側が高いという軸です。それから縦軸は、製品のハードウェア要素が大きいのが上、ソフトウェア要素が大きいのが下。この2つの軸を持ってきて整理したのが、この図です。

 従来の産業はいずれも芸術性が低くてハードウェア要素が大きかった。これには電機とか機械のような、既存の製造業が該当します。それから、ソフトウェア要素が大きくて、芸術性が低いもの……従来のIT産業のほとんどは、ここに入ります。一方で、芸術性の高い産業でソフトウェア要素が大きいものに関しては、従来のデジタル・コンテンツと呼ばれるものが該当します。例えば映画とか、アニメとか、ゲームとか、そういったデジタル・コンテンツと言われていたものがこの領域に入ります。そして、向かって右上の部分……芸術性が高くてハードウェア要素の大きいもの。こういう市場は、これまで存在しませんでした。そして、我々が目指しているデバイスアートというのは、まさにこの部分にピッタリなのです。ハードウェア要素が大きくて、尚かつ芸術性が高いものを目指していて、これに成功すれば新しい市場がプラスアルファで増えることが期待できるわけです。

 今この領域の新市場では、社会全般でもこれを目指そうという動きには顕著なものがあります。例えば、ロボットですね。今、ブームで大変着目されています。従来、このグラフでいうところの左上(芸術性が低くてハードウェア要素の大きいもの)に入る、産業の現場や工場内で働くようなロボットは、たくさんありました。でも最近では、ロボットが一般家庭に入り込んで、踊りを踊ったり、人々を癒してくれたり……ある意味、芸術性が要求されるような分野への応用が非常に進んでいます。

 あと、ゲーム関係の人に言わせると、従来のデジタル・コンテンツはまさにソフトウェアの世界だったけれど、任天堂の「Wii」に代表されるように、これからはインターフェイス・デバイスの良し悪しが、かなり市場を握るキーになることも十分あり得るわけで、こういった(この図でいうと)赤で書いた部分(芸術性が高くてハードウェア要素の大きいもの)がまさに、今後は成長していくだろうというわけです。

 まあ、「そう簡単にはいかんだろう」という話が、これからたくさん出るとは思うのですけれど、とりあえずこれに成功すれば、明るい未来が開けてくるということで、このプロジェクトの紹介としたいと思います。ありがとうございました。


草原:岩田先生、ありがとうございました。では、これからアーティストの方々にそれぞれプレゼンテーションを……最初はクワクボさん、それから八谷さん、それから土佐さんという順番でお願いします。その後、10分間ほど休憩をとってから、パネル・ディスカッションという形を予定しています。それではクワクボさん、よろしくお願いします。