CREST Project
Device Art Symposium "Reflections on Commercializing Media Art"
Presentation
by Kazuhiko Hachiya


CRESTプロジェクト
デバイスアートシンポジウム「メディアアートを商品化するということ」

プレゼンテーション:八谷和彦
2007年9月30日@日本科学未来館7F:みらいCANホール


2.2■八谷和彦:プレゼンテーション

八谷:こんにちは、八谷です。最初に、デバイスアートとかCREST以前に作っていた自分の作品で、今日のお話に関係がありそうなものをいくつか見ていただきたいと思います。


2.2.1●『ThanksTail』
    『ThanksTail』

これは、『ThanksTail(サンクステイル)』【図1】【図1】ThanksTails(撮影:牧原利明)クリックして拡大という作品です。これは……お台場で車を借りて走り回って撮った映像[スクリーン]なのですが、ほとんど見たまんまで「自動車に尻尾を付けよう」というプロジェクトです。車ってワーニング(警告)のためのツールはいっぱい付いていますよね。例えば、クラクション、パッシング、ハザードランプなど、「気をつけろ」というためのツールは色々とついているのですが、「ありがとう」というための道具が1個も付いていないな、と思っていて、ずっとそれが自分の中では疑問だったんですね。世界中には色々な国がありますけれども、たぶんどの国でも「ありがとう」という言葉は絶対にあると思う。ところが、自動車の社会ではそれがないというのが、すごく変だなと思っていて、自動車が「ありがとう」と言えるようにならないと、やっぱり道路がストレスのたまる空間から抜けられないんじゃないかと思って作ったのが、これです。

 これは、2年ぐらい前にWAKOという会社から、実際に商品として発売されました。自分としては大ヒットを狙っていたのですが、そうならずに終わってしまった。ただ、実際に商品版を作ったことによって、良くない点なども色々と分かってきたので、『ThanksTail』に関してはまだ諦めていないといいますか……。できれば自動車メーカーの新車に付けたいなと思っていて、例えば「ビッツ」とか「マーチ」とかのオプションで「カーナビか『ThanksTail』か」みたいな感じにぜひしたいなあと思っていますので、もしも自動車会社の方がここにいらしたら、よろしくお願いします。

 ちなみにこれに関しては、特許を一応取っています。ただそれは、特許を取って自分が大儲けをするというよりも、なんというか……自分自身が自由に使えるように、ということが目的なので、できればクリエイティブ・コモンズとか、あるいは「僕が特許を持っているので、皆さん無料で使ってください」みたいな形でやるのが、この『ThanksTail』プロジェクトの目的です。自動車って、便利なことも当然たくさんあるのですが、同時に日本国内だけで年間に1万人近くの人が死んでいたり、事故件数に至っては100万件くらいあったりするんですよね。100万もの人がそれで悲しい目に遭っているということは、やはり改善の余地が相当あると思うんですよね。だから、アーティストとして、そういうことに何か寄与できないかなと思って作ったのが、この作品でした。


2.2.2●『PostPet』
    『PostPet』

もうひとつ、僕の作品の中で量産化されたもので、たぶん一番有名なものがこれなのですが[スクリーン]、『PostPet(ポストペット)』【図2】
【図2】PostPet(c)So-net Entertainment Corporationクリックして拡大
というものです。見たことがある方も多いんじゃないかと思うのですが、ピンクの熊のキャラクターがメールを運ぶソフトウェアです。もともとは1995〜96年頃に作り始めたので、もう10年くらい前の話なのですが……当時は、今では信じられない話ですけれど、電子メールをあまりみんなが使っていなかったんですよね。特にインターネットのメールを使う人が少なくて、使っているのは男しかいない。しかもだいたいエンジニアかオタクという……そういう感じでした。だけど、それはちょっと変だな、というか、例えば携帯電話を持っていたとして、それが男にしか繋がらない携帯電話だったら……そんなものは意味ないでしょう、というふうに思っていた。だけどメール自体は便利なものだから、自分の友だち、特に女の子とかが積極的に使うような仕組みがあればいいのに、と思っていたところ(実際、僕が寝ていたんですけれど)テディベアがメールを運んでくる夢を見たのですね。で、それを正夢にしてみるのも面白いんじゃないかと思って作り始めたのが、これです。


 だけど自分はソフトウェアを作ったことがなかったので、最初は「自分でC言語を勉強して、そこから始めっか!」みたいなかたちで、『初めてのC言語』という本を立ち読みしたりしたんですけれど、すぐに挫折して、プログラマーやデザイナーといっしょに『PostPet』を作り始めました。どういうものを作るかということは一応先に決めておいて、その後に、じゃあそれをどこがリリース/ディストリビュートしたら一番メリットがあるかなと考えて、ソフトウェアの会社……例えばアドビとか、そういうパッケージ・ソフトの会社ではなくて、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)が出すのが1番メリットがあるだろう、と。会員獲得にもなるし、ISPのサービスとしても、メールソフトってあった方がやっぱりいいから……ということで作ったのが、これです。

 実は最初、これをゲーム会社のSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)に持ち込もうとしたのですけれど、SCEからSo-netを紹介されて、それでSo-netの担当の方が『PostPet』をすごく気に入ってくださった。小出さんという女性の方だったのですが「私、これだったら1万円でも買います!」と言って、社長に積極的に推してくださったので、結果、So-netから出すことになりました。ソフトウェアとしては開発にそんなに多くの人数をかけたわけではなくて、最初のバージョンの『PostPet』は、メイン・スタッフ3人と、その下にアシスタントがいるというくらいの形で、全部で10名ぐらいで、約8ヵ月かけて、Mac版とWindows版の両方を作りました。

 これ[スクリーン:映像]は長くなるので、ちょっとだけサワリを見て終わりますが、『PostPet V3』【図3】【図3】PostPet_V3(c)So-net Entertainment Corporationクリックして拡大という、今から4年ぐらい前に出したバージョンの制作過程です。(スクリーン上では)今ちょっと、表示テストをしています。V3からは個体差をつけよう、というのがありまして……体の大きさをどれくらい変えても成立するかとか、そういったチェックをしています。

 『PostPet』はSo-netから出しているので、ソニーで作っているとか、あるいは、すごく大きな会社で作っていると思われたりすることが多いのですが、実際にはこの『V3』まで、大した人数をかけずに小さな会社で作っています。これはプログラマーのところでチェックしているところですね。だから最終バージョンと違っています。これは(表示画面が)WindowsXPのデスクトップ画面とぴったり合うように作ったりしているところです(笑)。これは途中バージョンなので、背景の角が四角くなっていて、そこがバレていたりもするのですが……あと、中国語版が出た直後だったので、その「電脳ナントカ」っていうシールが(モニターの縁に)貼ってあったりします。



2.2.3●『OpenSky』
    『OpenSky』
    『OpenSky』Movie and Photo

今ご紹介しました『ThanksTail』と『PostPet』は、どちらも売り物として作っていたのですが、こちらは売り物にすることはまったく考えていない作品です。『OpenSky(オープンスカイ)』【図4】【図4】OpenSky_Moewe_1/2-2(撮影:森賢一)クリックして拡大というプロジェクトで、今、一人乗りの飛行機を作っているところです。これはまだ途中段階なのですけれど、『風の谷のナウシカ』というアニメーションに出てくる「メーヴェ」という主人公の乗っている飛行機が欲しいなあ、ひとつ作ってみようかなあ、という軽い気持ちで作り始めたもので……いや、本当は軽い気持ちじゃなくて、かなり真剣に作ってはいるんですけれど。ただ、飛行機としてちゃんと成立するものを作ろうということで、プロフェッショナルな航空機エンジニアの人といっしょにやっています。

 今は、ゴムで機体を引っぱって、飛行実験をしているところです[スクリーン]。これだけみると全然メディアアートじゃないんですけれど……まあ、自分のやるべきことはテクノロジー・アート全般だと思っていて、航空機の制作だって当然テクノロジーは関わっていますのでいいでしょう。現段階では、こうしてゴムで引っぱって飛ばしているところです。でも、最初は「この形では、飛べないだろう」とか、散々言われていたのですけれど、実際に作ってみると、案外ちゃんと飛ばせるんです。もちろんそれは、ちゃんとしたエンジニアと組んでいるから、なんですけど。なんて言いましょうか……「ほとんど不可能だ」と一般では言われているようなことが、アーティストという立場だと、実はやれたりするので、こうした飛行機の制作みたいなのも、自分の作品としてやっています。


2.2.4●「Fairy Finder」シリーズ
    『Fairy Finder』

ただ、この『OpenSky』は2003年から始めてもう4年以上経つのですが、まだ終わっていないので……いい加減、完成まで4年も5年もかかるプロジェクトばかりだとつらいな、と思いまして、その間にもいくつかの作品を作っていました。で、ここからがCRESTと関係のある話なのですが、僕は岩田先生のお誘いで、この「デバイスアート」の方に参加するようになって、基本的にはディスプレイとか表示系のことをやりたいと思っていました。その時に暖めていたネタで、「FairyFinder(フェアリーファインダー)」というシリーズがありまして、それを何作かCRESTのデバイスアート・プロジェクトの中で作っています。


 これ[スクリーン]は、その「FairyFinder」の3作目にあたるものですが、1作目と2作目は自分の制作費で作りました。(3作目が)去年、ここ科学未来館の「デバイスアート展」でカフェに置いていた『コロボックルのテーブル』【図5】【図5】table_of_the_Colobockle(撮影:米倉裕貴)クリックして拡大という作品です。これはテーブル状の作品なのですが、そのテーブルの中に雪景色がありまして、肉眼では何も見えないのですが、飲み物といっしょに運ばれてくるコースターを通して見ると、そこには小さな妖精がいて……という趣向の作品です。

 これはカフェ・テーブルとして設計されていまして、実際にカフェなどに置いても十分に成立するように作っています。実は一部でコンピュータも使っているのですが、スケジュールで自動で起動・終了するようにしてあります。よくコンピュータを使っている作品だと「いつのまにかプログラムが落ちていた」とか「調整中」って立て札がかかっていたり、といったことがありがちなのですが、そういうことがあまりないように、比較的ロバストといいますか、調整が必要ないし、手間をかけなくても大丈夫な作品として作られています。例えばコースターもそんなに値段が張らなくて……展示したり、お店で使っていたりすると、コースターもお客さんに持っていかれちゃったりするケースもありますから、それにいちいち高価なものは使えないので、原価も安くできるような構造で作られています。ちなみにこの作品では(コースター越しに見える)小人の撮影は、パフォーミング・アーツの人といっしょに作っていまして「珍しいキノコ舞踊団」というダンス・カンパニーのダンサーの方に踊ってもらっています。


 話が前後しますが、この「デバイスアート」の中で、僕は「不可視ディスプレイ」というものをひとつのテーマとしてやっています。ディスプレイなのですが、わざと肉眼では見えないような状態を作って、何か特別なツールを通すことで初めて像が見える、というようなものです。それを『FairyFinder』というシリーズでやっていて……まあ、言ってみれば「妖精を見るための装置」みたいな感じですね。


 で、このシリーズの続編が、今、未来館に展示してある『人魚のバーテーブル』【図6】【図6】人魚の窓(撮影:木奥恵三)クリックして拡大(注:後ほど『人魚の窓』に改題)で、コースターとして手元に来たものを鏡として使ってもらう感じです。今、目の前の船の窓には、一見何も映っていないように見えるのですが、このコースター越しに見ると、実は人魚がいて……という作品です。今、人魚が寝ていますよね……。先ほどの『コロボックルのテーブル』はカフェ・テーブルを想定して作られているのに対して、こちらはバーテーブルとして作られていまして、実際にバーに置けるようにお酒を置くための台もあります。台にコースターがあって、それを通して見ていると、ハッと気がつくとこちら(船の窓の外側)にはいないのに、こちらのテーブルのコースターには映っている……みたいな、そういう趣向で作られています。

 これは人魚なので当然、水中撮影の映像が使われています。実際にテーブルとしてどういう置き方をするかは分からないのですが、ひょっとしたらこちら側に作品があって、後ろに鏡があって、その鏡越しに見ると人魚が映っているという形にするかもしれません(後ほど、この形式に変更)。

 今回はこのような「デバイスアート展」とかに出品しているので、「電気的な仕掛けがある作品なのだろう」というふうな前提で皆さん作品を見ますけれど、実際に設置してみて思ったのですけれど、想像以上に幽霊感があるというか……本当にオバケっぽい(笑)。本当にバーとかに置いてみたら、悪い噂が立って、逆に客が入らなくなるんじゃないかという気がしないでもありません。でも、映像は怖いものじゃなくて、非常にキレイな仕上がりで、可愛らしいモデルさんを使っていますので、よかったらこちらも後で観てやってください。


 それと最後にひとつ。これ[スクリーン]はジェームズ・クラーさんという方の作品で、この作品のプロデュースもCRESTの中で僕がやっています【図7】
【図7】クリックして拡大
。これもディスプレイなのですが、本当の3Dディスプレイと言いますか……LEDを実際に立体的に1000個配置してありまして、その中に立体像を表示するというものです。今、「MIRAICAN」って表示しています。

 僕はNHKの『デジスタ(デジタル・スタジアム)』という番組にキュレーターとして参加していまして、その中でジェームズ・クラーさんに見せていただいた作品がすごく良かったので、それを量産化できて、商業施設などで使えるものとして試作したのがこれです。これも非常に面白いディスプレイなので、よかったら観てやってください。

 とりあえず、僕の紹介はこのくらいで終わりたいと思います。実際に「商品化するにあたって、今までどうだったか」とか、あるいは「こういうバーテーブルや『コロボックルのテーブル』を販売するのはどうなのか」といったことに関しては、後半のディスカッションで述べていきたいと思います。どうもありがとうございました。


草原:八谷さん、ありがとうございました。ちなみに私はこの夏にも、海外でデバイスアートの講演をしてきまして、フィンランドでは大学院生と小学生を相手に話をしました。その時、八谷さんの『ThanksTail』と『PostPet』を紹介したところ、どちらも大受けで、「『PostPet』はどこで見られるのか?」とか、「フィンランドでも使えるのか?」というような質問が続出しました。その時、「こういうこと(アート作品の商品化)が可能なのだ」ということを自信を持って話すことができるキーとなる作品が、これら八谷さんの仕事だということを感じました。というわけで、次は土佐さんにお願いします。