CREST Project
Device Art Symposium "Reflections on Commercializing Media Art"
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by Dominique Chen


CRESTプロジェクト
デバイスアートシンポジウム「メディアアートを商品化するということ」

コメント:ドミニク・チェン
2007年9月30日@日本科学未来館7F:みらいCANホール


2.4■ドミニク・チェン:コメント

草原:では、そろそろ後半の部に入ります。前半の最後の方で、かなり核心に迫るお話を土佐さんがされていましたが、たぶん八谷さん、クワクボさんの方からも、このあと具体的な話が出てくるかと思います。  その前に、今日は(プレゼンテーションしていただいた)プロジェクト・メンバーの方々に加えて、「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」のドミニク・チェンさんにも参加いただいていますので、先に「クリエイティブ・コモンズ」のプレゼンテーションといいますか、今までのプレゼンを踏まえたコメントでもけっこうですし、まずはお話をお願いできますか?


ドミニク・チェン:こんにちは、「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」のドミニク・チェンと申します。僕はクリエイティブ・コモンズというNPO法人を日本で運営しています。先ほどクワクボさんがプレゼンされた中で、最後の方のスライドでも触れていただいたのですが、彼が手がけている『Pri/Pro』というものをウェブを通して、より広く社会の中に散播(さんぱ)するために、普段僕がクリエイティブ・コモンズというプラットフォームやフレームワークでやっていることを応用できないかということで、かれこれ1年ぐらいご相談させていただき、協議を続けています。今日は、急きょ参加が決定しましたので、特に改めて用意はしていなかったのですが、とりあえず手元にある資料をお見せしたいと思います。まず、クリエイティブ・コモンズというのがどういうものなのかということを、手短にお話しします。クリエイティブ・コモンズの理念と活動を要約した動画がありますので、まずはそれを見ていただくのがいいかもしれません[スクリーン:動画]。


2.4.1●クリエイター自らが権利を定義するライセンス

この団体自体はアメリカで2001年より展開している、比較的若いNPOでして、約40ヵ国(※2009年8月現在は52ヵ国)の言語に翻訳され、各国に自立的な支部があるという形で動いています。ちなみに僕は、日本の事務局の設立メンバーとして文化事業等を担当しています。

 状況を非常に単純に説明しますと、今までだと人間が社会の中で何か創造的な活動を行なうと、法律上著作権と呼ばれるものが自動的に行為者に付与されてしまう。それは別に申請をしなくてもいいわけですね。例えば僕がここで落書きを描けば……その絵が創造的なものである、という了解があれば……それに対して著作権が発生する。その結果、それぞれの人が作った著作物を二次利用したい……例えば人に見せたいとか、複製したい、違う所で販売したいとか、あるいは二次創作物、リミックスをして新しいものを作るといった時に、許諾コストが非常に高くなってしまうわけです。いちいち著作者の人に許しを得るプロセスが、申請者が数人程度という場合はコストもそんなに高くないのですが、インターネットの普及に応じて、その可能性が100人?1000人と増えている中、それは問題であるという認識があります。これはネットの文化にとって非常に硬直的な状況です【図1】
【図1】クリックして拡大


 クリエイティブ・コモンズは、既存のコピーライトが「All Rights Reserved」だったのが、「Some Rights Reserved」と書いてあるように、いくつかの権利のみをクリエイター自らが主張することによって、例えば「この作品だったら自由に使ってもいいよ。でも、その時はこういう条件を守って使ってくださいね」ということをクリエイターが主張できる仕組みです。今までだと、例えば音楽だったらJASRACのような著作権管理団体にお願いしないとできなかった自身の作品の権利管理を、1人1人のクリエイターが自分自身で行なうことができるシステムだとも言えます。そして、様々な状況に応じて、「コピーライトか、フリーか?」という二分法の間に、基本的に6つのライセンスが中間層として設計されています【図2】【図2】クリックして拡大。もうひとつの側面からそれを説明しますと、作り手と使い手がいちいち契約を結ばなくても、事前に「こういうことはしていいよ」という了解を作者自身が作っておくシステムというわけです【図3】【図3】クリックして拡大

 実際のライセンスの一例をお見せします【図4】【図4】クリックして拡大これ(注:リンク先)は(ライセンスの条件を記した)ウェブページですが、「あなたは以下の条件に従う場合に限り、自由に」と、上に書いてあって、ひとつめが「本作品を複製、頒布、展示、実演することができます」。例えば、メールで色々な人に送ったりP2P共有ネットワークなどで他の人に渡してもいい。2つめには「二次的著作物を作成することができます」と書いてありますが、これを普通の言葉で言いかえたら、「リミックスをして公開してもいいですよ」ということです。

 その代わりこのライセンスの場合は次の条件があります。まず、原著作者のクレジットを必ず入れる。「この人が作りました」と表示して、「元の作品はこのURLにあります」とクレジットを表示しなければならない。そして、このライセンスは非営利条項がついているので、この作品を使ってお金儲けをしてはいけません。そして最後に「継承」というものがあります。このライセンスの場合、これがついていることによって、いわゆる「コピーレフト」……オープンソースという概念をご存じの方はご理解されると思うのですが、例えばクワクボさんが絵を描かれて、その絵を僕がリミックスして公開するという時、僕が違うライセンスをつけて、創作物をもっとがんじがらめにプロテクトすることができないようにしているわけです。僕は、クワクボさんが選んだライセンスを継承して、同じ自由度を次の世代にも与えなければならない。これは、6つあるライセンスの一例です。  他にも、このライセンスをつけると、検索エンジン等が読み取れるようにするためのメタデータが書かれます。自分のホームページ上で作品を公開している場所のソースコードにこういうメタデータを貼ると、GoogleやYahooでもクリエイティブ・コモンズの条件に応じたサーチに引っかかるようになっています。その裏側には、ちゃんと法的な記述が書かれたものがありまして、これは弁護士によって書かれたものなので、先ほどお見せしたシンプルな記述の裏には、法律的にも実効性のある文章がきちんと存在します。例えばライセンスに違反している人を見つけた時には法廷でも争えるだけの法的な効力がライセンスに記述されているわけです。

 条件の組み合わせによって6つのライセンスがあって、文脈や時々に応じて選ぶことができます【図5】【図5】クリックして拡大。例えば音楽に特化したようなライセンスもいくつか作られています。



2.4.2●クリエイティブ・コモンズ・ライセンス適用事例

具体的な事例は私たちのホームページを見ていただければ、そこにもいくつか載っています。音楽の例で言うと、『Wired』(米国の雑誌)の付録CDに、Beastie Boysとか、日本人では小山田圭吾さんなどが、楽曲をクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで提供しています。その楽曲が「CCMixter」というサイトにアップされて、一般向けのリミックス・コンペが行なわれました。それ以降もこのコミュニティは、他にも多くのリミックス・コンペを開催して、成長し続けています。

 実際にビジネスモデルとしても、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスをフルに採用した音楽レーベルというのがアメリカにはあります。これは、「Magnatune」という、普通に音楽コンテンツを販売しているレーベルなのですね。だから、通常の考えで言えば、曲が売れないとつぶれてしまう。ただし、自分たちが販売している楽曲がより広く広まるために、楽曲を非営利目的で使用する場合にはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもと、フリーでダウンロードしていいということになっています。ただし、ライセンス使用料、例えば映画のサントラに使いたいとか、CDを販売したいといった時には、もちろん使用料が必要で、別途契約をする。その契約に結びつくまでのパスを複数発生させるために、このようにCC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンスを使っている。

 これと同じようなレーベルは、かなり増えてきています。フランスの「Jamendo」というレーベルです。またアパレルの「diesel」がやっている国際音楽コンペでも正式に採用されたりしています。あと、ご存じの方も多いと思いますが、坂本龍一さんがSHINGO2やクリスチャン・フェネスといっしょに青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場の反対キャンペーンを展開したのですが、最初のキャンペーン曲がCCライセンスで公開されて、そのリミックス作品がどんどんアップされていって、今100曲以上集まっています。これはつい先々週ぐらいの話ですが、元ソニー・ミュージック・エンターテインメントの丸山茂雄さんという方が立ち上げられた「mF247」というネット・レーベルがあるのですが、そこに所属するアーティストが自分の楽曲をアップロードする時、CCライセンスが選択できるようになりました(※2009年8月現在はmf247の事業譲渡につき、CCライセンスは使用されていない)。

 後は例えば映像ですと、日本では最近、動画共有サイトが続々CC対応をしています。これはNTTの「ClipLife」ですが、初期の段階でCCライセンスを採用しています。今年に入って「Yahoo!ビデオキャスト」( ※但し、このYahoo!ビデオキャストは2009年4月にサービス終了した)、あと、niftyのビデオ共有サービス、それから、ソニーの「eyeVio」も対応しまして、ソニーのような大企業もクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを使ったコンテンツ・ビジネスに参入し始めているということで、大きなニュースになりました。


 教育分野ですと、有名なマサチューセッツ工科大学が創設した「MIT OpenCourseWare」という動きがあります。これは国際的な動きにもなっていまして、日本でもJOCWといって18大学が参加しているコンソーシアムがあるのですが、そこでも教材やシラバスなどをどんどんCCライセンスで公開することによって、教育コンテンツを広く一般に提供すると同時に大学の認知度やプレステージをあげていくという試みが行なわれています。あと「OneLaptopPerChild」が有名ですが、その他にもオープン教育というスキームが今年はすごくフォーカスされていて、世界中でそういうオープンな教材やフレームワークを活用する教育プロジェクトがいっぱい出てきているのが現状です。


 またビジネスの世界では……ビジネスに特化した議論で「Sharing Economy」というものがあります。これはクリエイティブ・コモンズのメンバーでもある伊藤穰一さんの研究領域でもあるのですが、つまり既存の「囲い込みによってアクセスをできるだけコントロールして、利潤を上げていく」というビジネスモデルではなくて、「よりオープンにして、コンテンツへのアクセスを最大化した上での、新しい利用料徴収モデル」というものを考えていく。例えば、個人の起業家がいちいち法律を勉強して、契約書が自分にとって有利かどうかを専門家と検証するまでもなく、そうしたオープンなビジネスモデルを構築するために使用できる契約書の雛形をビジネスマンと法律家を交えて作っていこうというのが「オープンビジネス」というプロジェクトです。  この流れの中で言いますと、例えばマイクロソフトが「Office」用のCCライセンス・プラグインを去年の6月に発表して、かなり大きな話題になりました。これは「Word」で保存する時にCCライセンスで公開できるというものです。


 あとは出版の世界もオープン化が議論されています。書籍の出版などでも、書籍を販売すると同時に、その書籍のPDFデータをすべてCCライセンスでウェブ公開してしまう。色々な出版社さんにこの話をすると「どうしてそんな自殺行為をするんだ」と驚かれる方もいらっしゃるのですが、実際にアメリカでそういうふうに販売されて好調な販売成績を収めている本が増えています。例えば「ウェブ2.0」という言葉を作ったティム・オライリーが出した、『Asterisk』というVoice over IPの分厚い技術書があります。その書籍の全文PDFをCCライセンスで公開して、販売実績がどう推移するかをグラフ化して追ってみたところ、PDFを公開することによって特に書籍の販売が落ちるというようなデータが集まらなかった。そのことにティム・オライリーは驚いて、「ウェブというものをもっとうまく使っていったら、新しい出版の道がみつかるのではないか」と言っています。

 他にも、現在進行形で進んでいる試みもたくさんありまして、「BCCKS」というサービスがあります。デザイナーの松本弦人さんと伊藤ガビンさんがクリエイティブ・ディレクターをされている、非常に美しいプロジェクトなのですが、誰でも簡単に本がウェブ上で作れるというものです。ここでも、自分の本を作る際に、その本の中に写真を載せたいという時、ウェブ上にある写真、「Flickr」だけでも4000万件のCCライセンスの写真が集まっているので、そこから引っぱってきて誰でも使えるようになっています。

 そのようにして、他の人たちの作品を柔軟かつ迅速に利用することによって、多人数でものを作っていくスキームやインターフェイスが、ここ1年くらいですごく発達してきているということです。

 あと、大きなところで言いますと、「グッドデザイン賞」をやられている日本産業デザイン振興会が、今年度よりグッドデザイン賞を受賞した商品のデータベースの画像や商品解説の文章にCCライセンスをつけられるようになっています。しかも営利利用がOKなライセンスなんですね。だから雑誌編集などをやられている方は、そのデータベースにアクセスして、ある商品についての記事を作る時、いちいち企業に許諾を得なくても、CCライセンスの定義に沿ってそれらを使えば、許諾コストが一切かからないことになります。


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2.4.3●マテリアルなものに対して適用は可能か?

私たちはいわゆる「オープン・カルチャー」というスキームで動いていて、例えば先行するウィキぺディアだったり、フリーソフトウェア・ムーブメントやオープンソースの動きなどにインスパイアされて、ソフトウェアからコンテンツのオープン化ということを考えています。いわゆるデジタル・コンテンツで、ウェブを介して、今まではできなかったコンテンツ流通のあり方や、二次創作や共同制作のあり方を探っているわけです。

 今言ったようなオープンなソフトウェア/OSに、Linuxというものがあって、世界中のオープンソース開発者たちによって共同開発されています。既存の著作権でそれをガチガチに守るよりは、色々な企業がお互いの境界をまたがって、協力し合って作っていくことによって、独占化を防ぐ、セキュリティホールやバグなども迅速に修正される、さらにそのコードに則って新たなシステムが自由に開発できる、といったメリットが生まれています。世界がすべてWindows OSで染まらない、ということです。その結果、今LinuxというOSは非常に社会的なインパクトを持った形で、開発がずっと続いています。その元となったのは、80年代初頭に生まれたフリーソフトウェア・ムーブメントですが、そこから15年ぐらい経って、インターネットが本格的に普及しはじめて、今度はデジタル・コンテンツというものが誰でもアクセスでき、作れるようになって、それで、クリエイティブ・コモンズのような動きが生まれてきました。

 そして、今まさに(先ほど岩田先生のお話にあったように)デバイス自体がコンテンツになってくる状況というのは、そのさらに先にある……1.5歩〜2歩くらい先にある状況だと思うんですね。なので、歴史的に見ても、ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ……その先にあるのはソフトウェアとハードウェアが融合したような地平ではないかと。


 今、ご紹介した流れからもお分かりになると思うのですが、クリエイティブ・コモンズという動き自体が、まだインターネット上のコンテンツのみを対象にしているものなのですね。だから、実際のマテリアルに対してのアプローチというのは、運動全体としてまだ始まっていない。ただ、CCJPではこのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを使ってTシャツのデザインを簡単にリミックスしてみるというワークショップをやっています。それはコンピュータ・スクリーンの中に留まらないオープン・コンテンツの広め方というふうに考えています。なので、最後にそれをちょっとだけお見せします。

 株式会社サルガッソーと株式会社NOTAというところと、ちょうど去年の今頃から始めたばかりのデモです。これ【図6】【図6】クリックして拡大は先々週、Mozilla Japanといって、「Firefox」とか「Thunderbird」といった世界中で使われているオープンソースのブラウザやメーラーを開発している会社が24時間イベントを開催したのですが、その中で「Cシャツwithフォクすけ」というワークショップを担当しました。(参加者には)手ぶらで来ていただいて、ウェブ・ブラウザ上にインターフェイスが用意されているのですが、そこでオープン・コンテンツになっている「フォクすけ君」というFirefoxのマスコット画像を簡単にインポートして切り貼りして、30分くらいでTシャツのデザインをしてしまうものです。それがプリンタに落とされてドロップシップされる。最終的に、このような形のTシャツになるわけです【図7】【図7】クリックして拡大

 だからこれも、デジタルの世界から物質の世界に戻ってくるという一例です。先ほどの土佐さんの「EDELWEISS」において、ストーリーからオブジェクトに繋がっていく展開とか、あるいは八谷さんの『PostPet』とかにも、近い部分はあるでしょう。例えば今、メタバース(電子データとして構築された3次元空間にインターネットを通じて接続し、空間内の改変も自由に可能な電子世界)の動きが注目を浴びていますが、なかでも有名な「セカンドライフ」のように、従来のメールやウェブに対して、さらに3次元ウェブのような仮想世界との連携が生まれてきた。今までははっきりと分かれていた領域の間にある境界が曖昧になってきていて、それらを繋げていくことがさほど不可能ではなくなってきているという実感があると思うんですよね。つまり10年前だったら、土佐さん、八谷さん、クワクボさんが天才だからできたような状況が、今現在は敷居がだんだん下がってきている。単純に昔はコストが高過ぎだったことが、絵空事じゃなくて実現できるようになってきている。それこそ「Do It Yourself」みたいなことが、30年前はラディカルな政治主張だったものが、今だとその可能性を普通に、ポップに語れる状況が、主にインターネットの普及から出てきているのではないか、と思っています。